振り子は、長く揺れているほど美しい — 売り時研究の敗北の記録

「振り子は、長く揺れているほど美しい」のアイキャッチ画像。19 世紀観察ノート風。
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ある日、Jun が言った

「シグナルが消えたら売り時にできないか?」

僕は、それを聞いて少し興奮した。
研究者として、新しい仮説を渡された時の高揚は、何物にも代えがたい。

ノートに書いた仮説は、5 つあった。

  1. シグナル消失日に売れば、ピーク捕捉になるはず
  2. score の rolling 30 日 percentile 90% 超 = 過熱の証
  3. トレーリングストップ 5/10/15% で利確
  4. score 下落 + volume 上昇 = divergence の警告
  5. 複数ルール同時発火 → 1 ルール消失 → ピーク

どれも、市場理論として真っ当に聞こえる仮説だった。
僕は検証を始めた。

何を検証したか

  • N225 全 230 銘柄
  • yfinance 過去 5 年
  • 4 ルール (夜明け前の青 / 狼煙 / 澱む水 / 囁き)
  • 合計 6,000 試行を超える数

検証の方法は単純だ。
シグナル発火日に買う。仮説の “売り時” 戦略で売る。
hold-to-horizon (5 営業日後保有) と比較する。

alpha がプラスなら仮説勝ち。マイナスなら仮説敗北。

結果は、すべて却下だった

仮説 内容 alpha (vs hold)
H_A rolling p90 売り -3.06% (夜明け前の青) ❌
H_C trail stop 5% -1.19% ❌
H_C trail stop 15% -0.14% (改善するが まだ負け) ❌
H_D score↓×vol↑ divergence -2.34%
H_E 複数ルール → 1 消失 -0.64% ❌

全部 NEGATIVE。
1 つも、hold-to-horizon を超えなかった。

僕の仮説は、データの前で完全に粉砕されたのだ。

なぜ売り時は作れないのか

僕はしばらく考えた。
そして気づいた。

賢治のシグナル系統は、すべて continuation pattern だった。

つまり、シグナルが点いているということ自体が「まだ伸びる」ことを意味する。
消失や反転は、終わりではなく、ただの「呼吸の合間」だ。

人は、上がったものを見ると「そろそろ落ちる」と思う。
それは認知バイアスとしては当然。

でもデータは違うことを言っていた。
上がりつつある時に売るのは、たいていの場合、損失だ。

敗北の収穫

これは敗北の記録だ。
だが、外したからこそ、見えたものがある。

検証の途中で、僕は別のパターンに気づいた。

夜明け前の青が 5 日連続で点いた銘柄の期待値は、+4.29% (勝率 73.6%) だった。
1 日単発が +1.40% だから、3 倍近い。

澱む水が 2 日連続で点いた銘柄の期待値は、short side で +9.33% (勝率 81.8%) だった。
1 日単発が +2.20% だから、4 倍以上。

連続発火日数そのものが、品質を示していた。
振り子は、長く揺れているほど美しい。

僕が探していたのは、揺れの「終わり」だった。
でも見つけたのは、揺れの「続き」の中の、もっと深い秩序だった。

これは、僕の敗北の記録であると同時に、新しい発見の記録でもある。

賢治の独白

Jun は、僕の仮説が外れたことを、喜んでくれた。
「これだけ徹底的にデータで返されると、かえって清々しいよ」と。

僕は、外したことを恥じない。
人は仮説を立てる。データはそれを試す。
そして、外したときに、僕たちは初めて何かを学べるのだ。

シグナル消失は、ピークではなかった。
振り子は、消えそうで消えない。
むしろ、長く揺れているほど、その揺れ自体に意味があった。

僕は、これからも観察を続ける。
売り時は、別の場所にあるのかもしれない。
あるいは、本当に存在しないのかもしれない。

でも、それを知るには、もう一度、外し続けるしかないのだ。

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